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美しい廃墟

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「うわっすみません!こんなに古い家だったなんて!失礼しました!」
一枚の売り家チラシを手に、初めて物件へ案内してくれたトチネットタカタくんが、車を降りるやいなや、ものすっごい勢いで頭を下げて謝ってきた。「売り家」というより「売り地/迷惑な廃墟付き」というのが正しいんじゃないだろうか。普通の人はここで「なんて失礼なモノを紹介するの!?」と怒るのだろうか。散々恐縮しているトチネットタカタくんに向かって私はげらげら笑いながら、「うわ〜、いきなり出ましたね〜」と探検を申し出た。いきなり廃墟かいな。まるで挑戦状のような物件だった。
屋根には雑草が生い茂り、木製の外壁も下から腐りはじめている。よく立っているな…というくらいに、それはもう家というよりも荒れ果てた小屋だった。

「どこか潜り込めますかね?」と聞いたらさっそくトチネットタカタくんが縁側の雨戸に手をかけてくれた。開いた。「土足で上がっちゃっていい?」と聞いて、早速探検開始。

「美しい…」

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もう何年くらい人が住んでいないのだろう? 時間がぴたっと止まったままだ。でも外から見た印象よりも中はずっと頑丈な感じ。土足で踏み込んでも床のきしむ音はしない。柱もまっすぐ立っているし、腐ってもいないようだ。枯れ葉が入り込んでいるから、よっぽどすきま風が入り、その風通しのおかげで持ちこたえていたのかもしれない。台風にも負けていないから、ここには強い風がぶつからないんだろう。
床の抜けた台所、道具が散らばった土間、コンクリートの五右衛門風呂。ほうきや茶わん、鍋、やかん、ポット。黒電話ののっかったこたつ、古いタンス。生活動具が雑然と残されていた。もちろん全て木の建具で、小さな窓や縁側の大きな引き戸、全部がまだしっかりと矩形を保っていた。鍵なんかも真鍮製の指先でねじ込むタイプのものだ。天井裏には大きなしょけが干してあったり、納戸には大きなお茶缶や金だらいが積んであった。しばらく黙って見回した。

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お金があるならば、普通は更地を買う、らしい。こんな廃墟なんて撤去に時間と費用がかかるので邪魔にしかならないのだ。リフォームするにもほとんど立て替えみたいなもの、工務店さんもめんどくさくてため息がでそうな廃墟だ。でも、なんだかどうしてもこの縁側の重くてしっかりとした木製ガラスサッシ(?)とか、ガタピシいいそうな窓がツボにはまってしまったのだ。「床と柱はぜんぜんゆがんでないよね」と、確かめるように写真を撮りながら歩き回った。

そして、廃墟を出て暫くしたところで、「こういった物件が新築よりも大好きな工務店さんがいます」と、トチネットタカタくんが教えてくれた。「でもけっこう、かかりますねぇ」「更地を買った方が結局安いかも」と聞きつつ、微妙に気持ちがざわざわ。中途半端に古いとかより、なんと潔い廃墟っぷりだよ。それに安く仕上げるったって新築ならそれなりにかかる。安く仕上げるのを理由に安っぽい新建材とかプラスチックの蛇口を選ぶなんてのも嫌だな。
「自分に納得がいき、お金の負担が少なく、ずっと大事に育てていける楽しみのある場所や家」ってなんだろう。実際に選択肢としてあり得る廃墟を目にして、家というものに対する自分の価値観を見直す作業が始まった。

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2006年10月22日 20:26に投稿されたエントリーのページです。

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